抱き枕

 孫六は寝相も寝起きも良い。寝相に至っては夜床に入り朝起きるまで金縛りにでもあっていたのかと思うほどだ。
「――……絶対嘘だろう……」
 ちゅん、ちちち。
「質の良い睡眠を生むのだ」と一筋の光すら通さない襖のおかげで、部屋の中はまだ真っ暗だ。その向こうから、ちゅん、ちちち、と愛らしい雀の鳴き声だけが聞こえてくる。出陣も内番も入っていない非番の朝、僕は起き上がろうにも起き上がれない状態にあった。
 夜おやすみと言い合った時には確かにお互い自分の寝床に収まったはずだ。だというのに今僕は長い手足にがんじがらめにされている。
 冬も近づいた朝の空気のおかげで暑くはない、むしろむき出しの手足から伝わってくる高い体温は心地良いほどだ。
 長い手足で僕の体を器用に抱え込んだ孫六は、それはもう健やかな寝息をたてて、無防備な幼子のような寝顔をさらしている。
 長期任務や遠征の度、誰もが「孫六は微動だにせず寝ていて怖い」と口にするほど孫六の寝相の良さは周知の事実だ。だが実際はこんなにも甘えたな寝相をしていると、僕以外の誰が知っているだろうか。微動だにしないどころか自分の布団を抜け出して僕の布団に潜り込み、抱き枕もかくやとばかりに抱えられ。いや、布団を蹴飛ばしたり僕を追いやったりしていない分寝相は良いのかもしれない。
 まだ外から雀の鳴き声ばかりが聞こえる静かなそこで、未だすやすやと眠っている孫六の顔をぼんやりと眺めた。
 こうしているとお気に入りの抱き枕を抱え込むような姿勢も相まって幼く見える。おそらく本丸以外で眠るときは少しの物音にも気を向けているのだろうとは思うが、思うんだが。
「お前さん頼むから外ではやらないでくれよ」
 その声に、「むにゃ」と間抜けで愛らしい声が返る。起きたか? と一瞬案じたが、ぎゅう、と手足にこもる力が「まだまだ惰眠を貪るつもりだ」と雄弁に語っていた。
「……まあ非番だからな、許されるさ」
 寝過ごすことも仕方ない。おとなしく抱き枕に徹することにして、僕もまた静かに目を閉じた。
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